原 千夏 個展|ノスタルジア
このたびTHE POOLでは、2025年12月16日(火)から27日(土)まで、原千夏による個展「ノスタルジア」を開催いたします。
原は、潜伏キリシタンの調査を起点に「祈りと表現」の関係を探究し、パフォーマンス、論文、写真、インスタレーションなど幅広い方法で思索を重ねてきました。
本展では、被爆80年を迎えた広島と長崎をリサーチし、作家自身の記憶と重ね合わせながら撮影した新作写真シリーズを中心に、身体の普遍的な動きをモチーフとしたオブジェ作品も併せて紹介します。作品群は、時代や場所、個人の経験を超えて、人と人との記憶をつなぐ新たな場を立ち上げます。
原 千夏 個展「ノスタルジア」
会期|2025年12月16日(火)- 27日(土)※12月21・22日は休み
会場|THE POOL(〒730-0053 広島県広島市中区東千田町2丁目13-18)
時間|14:00-19:00(日・月・祝日 休廊)
料金|無料
広島で路面電車に乗っていた時、故郷の長崎にいるような感覚になった。
夏休み、わたしたちは、ひととき死者の側に立つ。じりじりと暑い体育館の壁一面には、皮膚が爛れた女性の後ろ姿や黒焦げになった人の写真がずらりと貼られている。体育座りになり、先生や被爆体験者の話を聞く。11時2分になる。黙祷。体育館を出た瞬間に感じる風のすがすがしさ。生きているのはなぜだろう。
長崎の小中学校・高校では、毎年8月9日は登校日である。物心つく前からくりかえし目にしたイメージは、戦争を体験していないにも関わらず、記憶の奥深くに根を張っている。
御幸橋にほど近いTHE POOLで展示を行うにあたり、広島と長崎でリサーチを行った。個別に語られることが多い二つの都市を、自分自身の視点でブリッジさせたいと考えたからである。
ノスタルジアという言葉は、もとの形に戻らない、または目にすることができない故郷を想う心象を指す。戦後に生まれたわたしたちは、二つの都市について、生きている人々の語りと撮られた記録でしか知ることができない。だからこそ、今ここに現存する視点を残すことは、一つのポストメモリー実践(註1)であるだろう。
原子雲をカメラに収めた市民やカメラマンたち(註2)に心からの敬意を感じながら、レオ・ルビンファイン(註3)のように二つの街をさまよい歩く。
マリーゴールドの花を見て祖母の畑を思い出すように、風景や自然のイメージから出来事が想起されることがある。視線の先の広島と、記憶の中の長崎を繋ぎ、過去と未来を接続させる。
鑑賞者それぞれが、記憶や経験を共有し合う場がここに生まれるように。
誰かにとっての「祈りのかたち」となるように。
原 千夏
註1:「ポストメモリー(postmemory)」という言葉は、ルーマニア出身の比較文学者マリアンヌ・ハーシュ(Marianne Hirsch, 1949-)によるもの。社会学者の鈴木智之(1962-)は、トラウマ的な出来事を直接経験した世代の後に生まれ、それらの記憶を内面化した人々による芸術表現を含めた実践を「ポストメモリー実践(postmemorial practice)」と呼ぶ。
註2:2025年に東京都写真美術館にて「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」が開催され、広島市民、報道機関のカメラマンや写真家の手による約160点の写真が公開された。松重美人(1913-2005)撮影の御幸橋西詰めの惨状や、原子雲を足元からとらえた写真も含まれる。
註3:レオ・ルビンファイン(Leo Rubinfien, 1953-)は、シカゴ生まれの写真家。2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件に遭遇したことを契機に、世界各地の街を行き交う人々の顔を撮影した「傷ついた街」シリーズで知られる。

原 千夏 HARA Chinatsu
1991年、長崎県生まれ。東京、長崎、パリを拠点に現代美術家として活動。武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科を卒業後、パリ国立高等美術学校への交換留学を経て、2023年に東京藝術大学大学院を修了。博士(美術)。同年、修了作品《空想の大陸 —記憶の岩—》で野村美術賞を受賞。潜伏キリシタンの白磁製マリア観音像についての調査を起点に、「祈りと表現」の探究としてパフォーマンス、論文、写真、インスタレーション作品などを発表する。時代や場所を超えて、人と人との記憶を結びつける方法を模索する。主な展覧会に「ARTIST STUDIO EXHIBITION 02」(東京大学アートセンター01_ソノ アイダ、東京、2025)、「開かれた窓」(旧出津救助院、長崎2024)、「NOMURA ART CONNECT 2023 野村美術賞展 前期」(野村證券株式会社、東京、2023)など。武蔵野美術大学、東北芸術工科大学非常勤講師。
関連トークイベント「記憶の中の場所」
THE POOLでは、2025年12月16日(火)から27日(土)まで開催する原千夏個展「ノスタルジア」にあわせ、トークイベント「記憶の中の場所」を実施いたします。潜伏キリシタンの調査を起点に、パフォーマンスや写真、インスタレーションなど多様な方法で、身体的な行為と記憶・信仰との関係を探究してきた原千夏。本トークでは、被爆80年を迎える広島と長崎をリサーチし、作家自身の記憶と重ね合わせて制作された新作写真シリーズを手がかりに、「風景」や「記憶の中の場所」の関連性を、キュレーターの筒井彩とともに紐解きます。
作品や制作の背景を通して、写真に写し出された日常の風景が、どのように個人の経験を超えて場の記憶と結びついていくのかを、皆さまとともに考える時間となります。
ぜひご来場ください。
トークイベント「記憶の中の場所」
日時:2025年12月26日(金)18:00–19:30
登壇者:原 千夏(現代美術家)、筒井 彩(キュレーター、ふくやま美術館 学芸員)
モデレーター:香村 ひとみ
会場:THE POOL
参加費:1,000円(要予約)
お申し込み|info@the-pool.info