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EXHIBITIONS

山本愛子|幻の類



このたびTHE POOLでは、2025年7月15日(火)から7月26日(土)まで、山本愛子の個展「幻の類」を開催いたします。

山本は植物染料を用いた染色を通じて、土地に根ざす自然の記憶と人の営みの痕跡をすくい取り、色彩として記録する作品を国内外で発表してきました。草木染やフィールドリサーチを軸とするその実践は、文化的アイデンティティや風景を巧みに作品へと昇華しており、注目を集めています。

本展では、山本の祖父母の記憶が刻まれた広島を舞台に、個人史と土地の記憶が交差するリサーチをもとにした新作インスタレーションを発表します。枝にかけられた染色糸が空気や光を受けて変化するさまは、蜃気楼のように不確かに揺めきながら確かにあった色の記憶を呼び起こすようです。時間や風景、文化や記憶が織りかさなる空間を、ぜひ会場にてご体感ください。


糸を染める。染めた糸を木の枝にかけておくと、空気に触れて色が揺らぐ。
一説によると、それが「幻」という漢字の由来だそうだ。

広島は私の祖父母が生まれ育った土地だ。夏休みには祖母の家によく遊びに行った。家には祖父が生前に描いた絵がたくさん残されていた。中でも一番印象に残っているのは、画用紙に色鉛筆で描かれたコーヒーカップの絵である。たくさんの色で描かれているにもかかわらず、それが白いカップであることが伝わってくる。幼い私にはそれが不思議で仕方なかった。浮かび上がる白色は幻のように思える。そんな祖父の絵を真似しながら色鉛筆を握ったのが、私にとっての美術のはじまりだったのだろう。

植物の色素で染色をしていると感じるのは、色には風景や記憶が内包されているということだ。そしてそれは常に変化しつづけている。今回、広島で個展の機会をいただいて、改めて祖母に広島での生い立ち話を聞きにいったり、祖父の絵を持って広島のまちを歩いたりした。その時も、風景と記憶は揺らぎつづけていた。

山本愛子


山本愛子 YAMAMOTO Aiko

1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了後、ポーラ美術振興財団在外研修員として中国にて研修。現在京都府を拠点に活動。国内外でフィールドリサーチを行い、土地に根ざした自然の記憶と人の営みが交差する痕跡や風景を、草木染などの染色技術を用いて色彩として記録する。また、その色彩を異なる文脈の色彩と接続・混合させることで、文化的アイデンティティから解放された存在へと昇華させる。主な展覧会に「往古来今/見えない泉をさまよいさがす」(横須賀美術館、神奈川、2024)、「Arts in KOGEI 螺旋への反転」(SiteA / 有斐斎弘道館、SiteB / 工藝の森、京都、2023)、「ART ROOM produced by GALLERY ROOM•A」(KAIKA東京、東京、2022)、「Under 35 2021」(BankART KAIKO、神奈川、2021)などがある。 


山本愛子個展「幻の類」
会期|2025年7月15日(火)- 7月26日(土)
会場|THE POOL
協力|広島市立大学現代表現領域


TALK EVENT

この度THE POOLは山本愛子の個展にあわせ、トークイベントを開催いたします。
類(たぐい)という言葉は、生物学的分類や血縁、共通の体験、さらには植生に見られる類群といった自然の営みまで、多層的な意味を含みます。山本は、祖父と祖母という血のつながりを持たない二人の生い立ちを想像する中で、世代を経るにつれて薄れていくと思われた体験が、自身の身体に異なる経路で受け継がれていることを発見しました。こうした感覚は、ひろしまという土地の記憶とともに、染色という素材が混ざり合い変容する表現とも響き合います。
本トークはアーティストの長坂有希をゲストに迎え、被爆体験や血縁、ひろしまの植生や染色表現など、それぞれのフィールドから「類とは何か」「アイデンティティとは何か」を批評的に問い直します。単なる共有や分類を超えた多角的な視点で、記憶の継承や存在の意味を参加者とともに考える場にしたいと思います。染色、植生、ひろしまの歴史と身体的記憶、さまざまなフィールドから「類」というテーマを解き明かす時間となれば幸いです。


トークイベント「類」について
開催日時|2025年7月15日(火)19:00〜20:30 
     ワンドリンクオーダー制
申込|一般¥1,000 学生¥500(税込)※要予約、定員に達し次第〆切
   info@the-pool.info までご連絡ください。

会場|雁と鶴 
   広島市中区鶴見町9-11 第2三沢コーポ104号室 https://www.instagram.com/gantsuru/

 

【登壇者】

山本愛子(美術家)

染色技術を手がかりに、自然環境と人間の関係性を主題とする作品を制作。空気や水、土地といった自然の要素と人の営みが交差する場をリサーチし、アジア各地での滞在制作を重ねてきた。染める行為のなかに潜む時間性や記憶の痕跡に注目し、可視と不可視のあわいに浮かび上がる風景の揺らぎをすくい上げるような表現を探っている。
神奈川県出身、京都府在住。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。ポーラ美術振興財団在外研修員(中国)。京都精華大学芸術学部テキスタイル専攻 非常勤講師。

長坂有希(アーティスト)

人間や非人間の生き物たちとの関係性、そのつながりのなかで紡がれてきた知恵や技術に関心を持ち、個人的な出会いや協働を通じたリサーチと表現を実践している。美術的手法と語りを往還しながら、《縁起》としての世界の生成構造に触れようとする活動を続けている。近年は北海道の自然環境をフィールドに、芸術と科学を横断するかたちで、生態系に関する実践的研究を展開中。
米・テキサス州立大学オースチン校で美術学士号、独・シュテーデルシューレでマイスターシューラー取得。文化庁新進芸術家海外研修制度によりロンドンで研修。現在、香港城市大学クリエイティブ・メディア学科博士課程在籍、広島市立大学芸術学部 現代表現分野 専任講師。

香村ひとみ(キュレーター)

地域社会との協働、空間における芸術表現の現象性、美術史的視座の交差点に関心を持ち、展覧会の企画と執筆、リサーチをおこなう。制度と現場、記録と記憶のあいだに立ち上がる表現の構造を読み解きながら、現代における芸術の公共性や社会へのひらかれかたを問い直す活動を試みている。
武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。アートプラットフォームTHE POOLディレクター。ひろしま国際建築祭2025キュレーター、神原・ツネイシ文化財団研究員。広島市立大学および叡啓大学非常勤講師。